電卓をたたくタイミングと問題に向き合うスタンス(後編)
***(はじめに)***
前編では,「本当に簿記・会計の資格に受かるのは,電卓をあまり叩くことなく解答用紙に解答をスラスラと書けた人だと思っている」ということを書きました。
これだけを読むと異論・反論もあると思います。
では,なぜ私がそう考えるのか?後編ではそのタネあかしをしたいと思います。
あくまで持論ですので鵜呑みにする必要はありませんが,簿記・会計の問題に向き合ううえで大事なことの1つをお伝えしたいと思っています。
***<1>***
それを解きほぐすためにも,まず,あなたが「問題を作る側」に回ってみましょう。
Q:「日商簿記検定3級試験で,合格率が40%になるように問題を作りなさい。」
・・・さて,あなたならどう作問するでしょうか?
少し考えてから,次に進んでください。
***(2)***
そのためには,以下の2つを持つことがまずもって必要です:
1.どこまでの知識を持った人を合格させるべきか?
2.どこまでの能力や実力を持った人を合格させるべきか?
この2つがブレてしまうと,問題は作れません(当然,合格率40%にはできません)。問題を作るためには,問題を作るための方針が必要だということですね。
次に必要なのは,
3.どんな問題を出題すると受験者の知識・能力・実力を適切に点数として示すことが出来るのか?
―>合格率を40%にするために最も重要なことですよね。
これをざっくりと分けてみます:
受験生の持っている知識を適切に試せるか?集計・記録する能力を適切に試せるか?分量は制限時間と照らし合わせて適切か?問題の質は簡単すぎないか,難しすぎないか?
を決めなければいけないのです。
…細かいですよね。電卓と何の関係があるのか?と思うかもしれないですよね。
しかし,ここまで長々と書いたのは,ここまでが前提として知っておいて欲しい必要なこと,だからです。
***(3)***
さて,本題に入ります。
最初のなぜ,そう考えるのか。それは,一言でいえば:
「どこで電卓を使う必要があるのか?」を読み切れている証拠だと考えているからです。
・どれを知識自体を試す問題にするのか?
・どれを集計力を試す問題にするのか?
・どれを記録する力を試す問題にするのか?
・どれだけの分量と質にするのか?
など
これらは試験を作る側が決めないといけないし,決めています。我々は,このことを「出題の意図」と呼んでいます。
試験委員・作問者が出題する問題,予備校の先生が出題する問題,また問題集に掲載されている問題・・・。これらには必ず「出題の意図」があります。やみくもに資格試験の問題を作る作問者はいません。
資格に合格するためには,「出題の意図」をしっかりと読み取らなければいけません。
この「出題の意図」が読みとれているかどうかが,特に試験を受験される方にとっては合否を分けるのです。
***(4)***
身近な例でいえば,現金。今回は現金の問題が出題されましたとしましょう。
限られた時間の中で,現金の「何を」試験委員は試したくて,その中で受験生のみなさんは「どこで」「どれだけ」電卓を必要とするのか?見極める必要があるのです。
作問者は:
―簿記上「現金になるもの」と「現金にならないもの」の区別を問いたいのでしょうか?
―売掛金・買掛金などが動いたことで現金がどう動くのかを問いたいのでしょうか?
―現金過不足の処理を問いたいのでしょうか?
―手持ちのユーロを簿記上どう円に直すのかを問いたいのでしょうか?
よく現金に関する長い計算問題はややこしくなりがちだ,などという意見を耳にしますが,必ずしもそうではありません。簡単に答えが出る問題もあります。取りこぼしたら,痛いですよね。
それが「出題の意図を読む」ということです。
***(5)***
しっかりと問題に向き合う際に「この問題は何を問いたくて,どこで電卓が必要になるのか?そして,電卓を叩く手間はどの程度必要だろうか?」というスタンスを持てる人こそ,問題の裏側にいる作問者と対話ができている証拠なのです。
このクセが身についていれば,特に分量が多く難しい相対試験でも,これはわざと処理量を多くしているのだな,後回しにしよう,といった冷静な判断ができるはずです。
結果,合格に大きく近づくはずです。
これが,電卓を叩くタイミングと問題に向き合うスタンスとが関連している,と考えている理由です。
何でもすぐに電卓を叩くのは,よほど簡単でない限りやってはいけないことなのです。
***<最後に>***
長々となりましたが,くれぐれも,電卓を叩くことが簿記・会計の計算問題ではないことを胸に刻んでくださいね。
「どっしりと問題・作問者と対話をしたうえで,冷静にここで電卓を使うんだな,というスタンスを持てた人が報われる」ことを胸にきざんで、勉強に臨んでくださいね。